■日時:2004年5月19

■場所:湯山昭講演会

     内容:新刊「ピアノの宇宙」そのレッスンポイント

 

1.ピアノの宇宙曲集ができた経緯

(1)15年前に刊行されたこどもの宇宙1〜3並びに子供の宇宙ステーション、合わせ

て全140曲、これを新しいアイディアで再編集したものである。

(2)再編集のポイント

@学習初心者(小学校高学年から大人)用に再編した。

A第1巻、2巻については難易度順に並べている

B大人用ということでイラストはカットした

Cレッスンポイントが学習者がわかるように各曲にガイドを入れた

D内容に応じた楽典を各ページに掲載(これが重要)

E新曲を16曲追加した

F新しく編曲したものは5曲である。

G速度記号、発想表を徹底的に追記している。

Hメトロノームの速度を表示

I指使いの再検討

Jピアノは歌うということをテーマにしている

     音をきらめく星に心を宇宙になぞらえて進行する

     1巻音が生まれる星になる 難易度順

     2巻:ピアノ星座 難易度順

     3巻:星達のパラフレーズ 西洋音楽史を学べるし 歴史のしがらみ

        バロック、ロマン、フランス近代、現代になぞらえて編成

(2声体、楽器の構造(倍音)、ペンタトニック、複調(複数調が同時進行)

このような全体像を示している)

 

2.曲目紹介

2−1 第1巻より

(1)1番:(一点)は音の連打

・第1ピアノはハの音のみ。第2ピアノにてハーモニーが順次発展してついてくる。

・音に色彩があることを学ばせることを目的としている。

・ハの音が星になるというイメージである。

・拍の頭を感じるようにするとフレーズ感も養える。

(2)16番:スラーとスタッカート

・旋律の誕生。

・スラーとスタッカートによりアーティキュレーションの勉強をする

・アーティキュレーションとは言葉使い、メリハリとなる

(3)18番:さようなら

二声の関係は

・並進行

・斜進行

・反進行

・ユニゾン(オクターブ)

があり、それらを学ぶ。

ここからホモフォニーとなる。

和音の勉強をするに当たり主要3和音についてこの教材ではどういう感じをするのか

ということを基本において

・トニック:安定した平和な世界から始まって

・サブドミナント:広がる世界

・ドミナント:燃えるエネルギー

という表現をしている。

このような捉え方をしているものは他にはない。

(4)25番:ひびけ、トンネルオクターブ

・スラー、アーティキュレーションを明確に、強調して弾くようにする。

・2オクターブで間の音が倍音で響くところがトンネルのイメージとなっている。

・音の共鳴を感じてもらう

・JAZZではジョージシアリングが使っている(シアリング奏法)

(5)26番:虹のハーモニー

(6)28番ピアノはこだまする

第1ピアノは和音を押さえているだけ。音は出さない(開放弦となる)

第2ピアノの音に共鳴し倍音が響く。ピアノの特性を意識させる

(KMAH)この手法はバルトークミクロコスモスにもあり。ミクロコスモス=小宇宙、

というころにも何らかの関連性があるのか。

(7)37番さようなら2(2声の独奏)

・ポリフォニー

・短調は心にヒダがあると言った人がいる。短調短三和音は感性を養う上で重要である。

(8)41番:二人でレガート

ホルン5度(下がドレミ、ミソドで動く形)

(9)45曲アルペンホルンがこだまする

・ホルン5度の多用(倍音が良く聞こえる)

・倍音はアップライトではなりにくい。また絨毯の上では響き難い。

(10)52番:フラット下りたら素敵な気分

・フラットは一時的な転調になる。この曲では一時的にヘ調に転調している。

・始めの2小節にて和音外音(倚音)を学ぶ

(11)53番:待っていた約束

 

2−2 第2巻より

(1)   1番春の足音

音階の練習

第1ピアノは拍を刻んで

初めての長音階

(2)8番:渦巻きキャンデー

強弱とスタッカートレガートの練習

リズムカノン(造語)

旋律は違うがリズム的に追いかける

ポリフォニー音楽の導入になっている

(3)13番:日本の響き

ペンタトニック(5つの音)ドレミソラ

西洋音楽に来れば貧相になる。

ペンタトニックに3度和声を加える

(4)14番:日本の響き2

最後に向けた自然に付くクレッセントはとても音楽的

(5)15番:ピアノは歌って深呼吸

・弦楽器で弾いているような感覚で。充分表現豊かに。

・自由な歌い方を学ぶ。

・旋律の深呼吸に合わせた伴奏のリズム感が重要。(アゴーギグ)

⇒(KMAH)フレージング。フレーズの捉え方、山がどこか、終わらせ方等よく考

えること。こういうことを意識して勉強する必要がある。

ポルタメント、テヌートというようなものも音楽表現と対応する必要がある。

 

(参)演奏法

@速度法

・基本テンポの設定:常に体で感じる、

・アゴーギク:微妙な速度変化想像力センスが必要。やりすぎるとアッチェランド

 になる。

・フレージング:句読点、アーティキュレーション:

・フレーズとフレーズの

A強弱法:ディナーミック。単に大きい小さいでなく、オーケストレーションの感覚

が必要。音色、人数の変化を感じることが本当のディナーミックである。

B音色法:どういう音色が必要かを意識する

(6)ピアノと歌ってT(童謡とともに):きいろいちょうちょ

童謡を入れていないのでここ歌を入れる

⇒(KMAH)湯山昭の童謡に対する思い入れは大きい。

実際、あめふいくまのこ、おはなしゆびさんなどは絶品。

その反面この童謡はそれほど切れを感じない。

(7)40番:つぶらなひとみのモーツアルト

・死ぬということはモーツアルトを聞けなくなることである(アインシュタイン)

・モーツアルトの悲しみは疾走する(小林秀雄)

というような言葉が残るくらいモーツアルトは多くの人に愛されている。

(8)最後:ピアノは歌う

⇒(KMAH)この曲もいまひとつ

 

2−3 第3巻より

時代別バロックから古典、ロマン派、豊かな色彩(フランス近代)と順追って紹介

(1)ポロネーズ

(2)   サラバンド

(3)   インテルメッツォ

(4)   クレープシュゼット(大人のお菓子)

(5)   白と黒のシーソー

(6)46番:沖縄の旋律を使った音楽

これらの曲は演奏会で弾けるよう独立曲となることを意識している。発表会でも取り上げ

てほしい。

学ぶべきことを見せないようにしているので演奏会で弾くに耐える曲になっている。

従って単一曲の形でのメソードと言える。

 

3.感想(KMAH

(1)第1,2巻について

湯山昭の曲はいずれも独立した曲として楽しく弾くことができる。

音を出す必然性、何を感じてどう表現するかということを養う上でとても興味深い曲が

たくさん紹介された。

またそれぞれの曲におけるメソードとしての意味合いが明確でかつそれば明示されてい

る点がとても親切であり教材としての価値も高いと言える。

その一方でこの曲集をメソードの柱として使えるかといえば残念ながらnoである。

15年前作られたこどもの宇宙を再編し一部新作を加えたとのことであるが、難易度順、

あるいは学ぶべきアイテムにカテゴライズして並べ直し、その後それぞれにメソードと

しての意味付けをしたというような感じを拭い去れないのである。

つまり、メソードとしてどうあるべきかという主張を今回の講演では強く感じられなか

ったのである。

メソードとしての確固たる信念方針がありそれにあわせた曲作りを行ったのであればメ

ソードとしての網羅性がある意味保証されるのであろうが、今回のアプローチでは残念

ながら網羅性という観点で説得力がない。

もっと言ってしまえば、作曲者が自分の曲を並べ替えて、それぞれについて作曲の意図

や狙い、着想などを述べているに過ぎず、それらがメソードと重なる部分はあるものの

メソードとして確立したものとはとても思えない。

従ってこの教材をメソードの柱として使うのは色々な意味で無理があるといえる。

一方最初に書いた通り一つ一つの曲が「音楽」を大事に丁寧に作られていることは間違え

なく、副教材として利用するのはかなり意味がある。

生徒の年齢や気持ち、音楽的な成長の度合い、抜けている点等よく見極め、副教材とし

て適宜この教本を使うことはとても意味があると感じる。

発表会にも1曲は入れておきたいものである。

 

(2)   第3巻

これまでの音楽形式や雰囲気を真似た音楽を時代別に並べて意味があるのだろうか。

前述の通りそれぞれの曲自体の価値を否定するものではないが、サラバンドにしろ、ジ

ーグにしろその形式を理解させる目的であればその時代の本来のものを学ばせたい。

フランス近代音楽という位置付けで取り組むのであればラベルやドビュッシーの小品を

弾けば良いのである。

この第3巻に触れることによりポロネーズやアルマンド等独特のリズム感を何となく身

に付け音楽的な幅を持たせるのが目的であるのならこの曲集、つまり「まがい品」を以っ

て音楽史を理解させるというのは愚の骨頂ではなかろうか。

この曲集においてもやはりそれぞれの曲の完成度、魅力の観点から副教材、発表会のレ

パートリとして利用したいと感じる。

 

以上