良いピアノとは〜ピアノの音量と表現力について〜

(1)ピアノの音量を確保するための技術

音量を出す方法には、ピアノ全体を響かせることにより大きな音を出すという技術と、弦を太くして強く張ることにより弦自体の音量を上げる方法があります。

(2)ピアノ全体を響かせる方法

ピアノ全体を響かせている代表的なピアノがあのスタインウェイです。
響板がピアノ本体と一体となっていわゆる楽器としてよく鳴る構造を持っているところは、良いオルゴールがとてつもない大きな音量を出したり、ストラディバリウスのバイオリンが大きなコンサートホールの隅々まで響き渡るようなことと同様な現象と捉えることができます。
ピアノが、このような『楽器』としての本質に優れているが故の音量は、オルゴールや名器と同様表現力という点でも優れたものである場合が多いと思われます。


(3)弦により音量を確保する方法

弦は強く張るほど大きな音が出ますがそれと同時に音程が上がります。
同じ音程を出しかつ強く張るには太い弦が必要となります。
従って太い弦を強く張ることにより大きな音が出ます。
しかし太い弦を無理やり鳴らす方法はピアノ全体への負担が大きくなるばかりか、音響をトータルで考えていないため表現力という点で随分劣るものになる可能性が多いと考えます。


(4)スピーカーを例に取った説明

上記事実はスピーカーなど構造がピアノに比べシンプルなものに置きかえてみるとよりわかり易く感じます。
@スピーカーの箱を鳴らすことの魅力
 シンプルなフルレンジスピーカー(スピーカ自身の特性が良いことが条件で
 すが)をダンボールのみかん箱につけるだけで、かなり良い音がします。

 無理にゆがめられていないので素直な直接訴える音(音楽)が出てきます
 (ただし低音は出ませんが)。

 箱全体が自然に鳴ることにより自然な音が出ることにより、演奏者の意図
 (この場合の演奏者とは録音されたものになるわけですが)が伝えられると
 いう良い例だと思っています。

 このような観点でタンノイのスピーカーとスタインウェイの共通点を感じま
 す。

A無理に低音を出す方法
 スピーカーを小さくしてスペース効率を上げ、スピーカ自身の重量を上げて
 固有振動数を下げることにより無理に低音を出すようにするスピーカをよく
 見かけますが、これはまさに、太い弦を強く張って無理やり大きな音を出す
 ピアノに似たものがあります。このようなものはコントロールし難く、細か
 い音(表現)ができません。こういうアプローチは明らかに音楽の本質から
 外れているものです。

 一時流行ったバックロードフォーン等も無理やり低音を出すため、時間遅れ
 や本来のスピーカユニットから出る音への影響を考えると納得できないアプ
 ローチです。


(5)まとめ

以上のように考えると、ピアノ全体を鳴らすアプローチと弦に頼るアプローチではどちらが音楽を表現する上で優れているかは一目瞭然となります。
スタインウェイがあれだけ重用される理由の一つがここにあります。
                                             2004.9