2002年11月19日(火)10:30〜12:30
藤沢ヤマハ友の会ホール
永冨和子講演会より

1. 力を抜くとは
(1) 指が完成する前の子供に大きな音を出させると腕を硬くして力を入れて
   押すケースが多い。力を入れるとますます腕に力が入るということになる。
(2) 一方力を抜くようにと指示すると本当に抜いてしまい音がまともにならない
   状態に陥る。
(3) 力を抜くとはタイミングの問題で子供にとってはわかりにくい。
(4) ピアノは構造上弾いた瞬間が勝負で引いた後いくら力を入れても何も変わ
   らない
(5) ピアノを弾くのに必要な力:打鍵には2〜3Kg必要であるが保持するには65g
   しか必要でない。つまり、弾いた後音を保持するのに65g以上は無駄な力とい
   うことになる。
(6) そのためには指をど独立させ1本毎弾いた瞬間に力を抜くような訓練が必要で
   ある。
(7) 指の第2関節が硬くなっているケースもある。これも無駄な力であり疲れる原因
   となる。
(8) 握力が必要。握力がナイト第3関節が引っ込むことになる。こうなると腕の力で
   弾こうとするので独立性が悪くなる。
   (注)第3関節が柔らかいとこれがクッションの役目となりかけた力が指先、つまり
      鍵盤に伝わらず吸収されてしまうという解釈もできる。

2. 力を抜く練習
(1) 四分音符を十六分音符4ケと数え、始めの1ケの時のみ指を方kして2Kgの力を出
   す。残りの3ケは十分力を抜いて65gを保つようにする。
   四分音符をいちとおにいとおさんとおしいとお、と数えその始めの十六分音符以外
   力を抜く(指も腕も)練習をすると良い。
(2) このとき手首が上下しないように手を平静にしまた硬くしないことに注意を払う。
(3) 腕の力を抜いたとき、もし鍵盤から指が離れれば腕は下に落ちる状態にする

3. 各音形の練習
(1) スケール、アルプジオ
  ・ 本来の弾き方を身につけないままハノンやチェルニーをいくら練習しても悪い習慣
   がつくだけである。
  ・ スケールのポイントは一つ。親指のくぐらせ方の問題のみ
  ・ 練習はレとミをそれぞれ2と3で抑えた状態で1の指でドとファを交互に弾く。
  ・ くぐらせ方を早くする。だから親指が弾き終わったらすぐにくぐらせる準備を整え来る
   べき次の出番を待つような弾き方が重要である。アルペジオも基本的にスケールと
   同じである。
  (注)モーツアルトの場合は確かにそうである。しかしポジションで取った方が合理的な場
     合も多い。ロマンは以降のアルペジオでは顕著である。和音でとる練習も必要である
     と感じる。
(2) トリル
  ・ 一番小さい形から練習する。そして一つずつ増やすこと。
  ・ 特にトリルでは力を抜けているかチェック
  ・ 手首を軽く鍵盤のそばから弾く感じ
(3) オクターブ
  まず6度から始め手の形をつくることが大切。第3関節が出てきちんと弾ける感覚を早く養う
  こと。
(4) レガート
  ・ レガートで歌うところ一番の敵は手の上下運動。手首が上下しないことがポイント。
  ・ 特に親指に力が入ると他の全ての指が硬くなる。親指の力の抜き方がポイントとなる。
  ・ レガートは歌うような気持ちで弾くと歌になる。
  ・ 音の粒ではなく流れとなるように。小さなダイナミックスの変化が重要。
(5) スタッカート
  ・ 鍵盤になるべく近づけて弾くこと。これが最も効率が良い。
  ・ 静けさの中での表現が必要。不要な動き、見せかけの動きは無駄。
(6) ノンレガート
(7) これは長さをそろえるのが至難。むらにならないよう。子供にはきつい。
(8) 指の拡張
  全ての指同士の間が広がるよう練習する。かなり年齢を重ねてからでも広がる可能性あり。
4. モーツアルト的演奏
(1) 当時の楽器はクラビコードであったため現在のピアノではダイナミックが出過ぎることをよく意
   識すること。
(2) 指の独立性が重要。54のトリルで1が硬くなるようではだめ。
(3) 無表示の楽譜が多いのでフレーズ感により強弱をつけるように
(4) タッチは主に4種類
  ・ レガート
  ・ レガーティシモはない(後期ロマン派以降)
  ・ ノンレガート
  ・ スタッカート
  ・ スタッカーティシモはない
  ・ ポルタート:語源はポータ。持ち運ぶように。ノンレガートの重いもの
  ・ マルテラート(金槌のように硬い音で弾く)はない
(5) 和声
  ・ 和声外音が多い
  ・ 倚音が多い。倚音とその後の解決音が一塊となるためそこにはフレーズ感が出てくる。そうな
    ると必然的に倚音がやや強くなり次の解決音に柔らかく移動することになる。
  ・ 刺繍音についても同様の捉え方が必要(トルコマーチの始めのテーマ。とてもデリケート。自然
   に聞こえるようにするのはかなり困難。
(6) アーティキュレーションの多様化
  (音の結合と分離)
  ・ バッハの場合イタリア協奏曲の場合始めのテーマの指示がないので自由度が多く色々な弾き方
   ができる。しかしモーツアルトはかなりアーティキュレーションについて細かく指定あり。
  ・ ボーイングをピアノに指定している場合もある
   シーファレーファシーレファーのフレーズでは2音ずつ単にフレーズ感を出すのではだめ。ボーイン
   グのイメージで揺れの感じを出すこと
  ・ 重い音符と軽い音符という捉え方をすると自然に聞こえる。
  ・ スタッカート、スラー等非常に細かい指示が多いのできちんと守ること。
(7) フレージング
  ショパンはハーモニー複雑だがフレーズ的には4小節できちんとできている場合が多い。しかしモーツ
  アルトはアンバランスなフレーズ:自由なフレーズが多い。思いつくと次のフレーズに行ってしまう。フレ
  ーズが非常に難しい。
(8) 分析の方法
  まず大きな構造を捉えてそれから枝葉は後にすること。
(9) テンポ
  曲のエネルギーに合ったテンポを掴むこと。
  録音して後で時間経ってから客観的に聞くのが良い。

5. K545ソナタのポイント
(1) 右左のバランス
  左のアルベルティバス(ドソミソ)ハーモニーとして溶け合うように、特にドが強くならないように。一本ずつ
  指を動かすように。
(2) トリル
  ・上から取るか下から取るかは規定なし。
  ・上から取る場合不協和音を含むのできつい、鋭い感じとなる。
  ・ トリルの最後の処理が縮まらないように(駆け込み乗車とならないよう)。
   これは最後の4音だけ取り出した練習が必要。それの前に1音ずつ増やして練習すること。
(3) アーティキュレーション
  アーティキュレーションについては何かお手本がほしいもの。原典版には何も書いていない。良い解釈版
  を複数勉強し自分なりの捉え方をするのが良い。フィッシャー版、バルトーク版等が良い。
(4) モーツアルトにはきつい音があってはならない。全て自然に響くように。
  自然な演奏とは細部までよく注意した決めの細かい演奏ということになる。

以上