アラベスクに見られるドビュッシーの東洋的響きについて
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1.はじめに |
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ドビュッシーのアラベスクはいかにもドビュッシーらしい繊細で美しい響きを持ったいかにも印象派の音楽らしい作品であると言えます。
しかしこの2番を聞いているとふと不思議な気持ちに捕らわれます。
これはドビュッシーが当時の大勢を占める音楽から打破するためのさまざまな模索その中には東洋音楽への傾注ということもありますが、そういう試みに触れる時そのような印象に捕らわれるのです。 |
2.東洋的響き
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端的な例を述べます。
提示部の後半を形作る始めの上行旋律、D,E,G,H,D,E,G,Hは、陽旋法、D,E,G,A,C,Dを少し連想させます。
そして決定的なのはその後に続く旋律の中にあります。
譜例1に示す赤の音をたどると誰もが知っているあの旋律が浮かび上がってきます。
そうです。日本人が中国を象徴するメロディーとして親しまれたあの旋律です。
譜例2のC,C,C,C,A,A,G,G,Aです。
尤もこれは中国とは関係のない物だそうですが、東洋的な印象を表すものであることには違いありません。
この中国をイメージさせる旋律というのは、HDurのT度からY度そしてT、Yという推移となります。このY度というマイナーコードへの移行は古典音楽では次にY度を生かしたメジャーコードへの移行(それはW度となります)、さらにその後のT度をを期待させられるものです。
あの有名なムーンリバーの旋律はその典型といえます(譜例3)。
ですから2回目のHDurT度のところをHDurW度とすると落ち着いた感じとなります。
E,Gis,Hの和音としその小節の最後をDis,Fis,GisをE、Fis,Gisに変えるということです。
そうすると次の小節の始めのHDurT度に安定した形で移行できます。
そしてこうなると同時にドビュッシーの狙っていた東洋的響きは同時に失せることとなります。

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